以前、会社の私物化はどんなところから発覚するか(体験談)って記事で、固定資産に絡む会社の私物化の発覚例を書きました。最近になってもう一つ、会計から会社の私物化が発覚した例を思いだしました。前の話と同じ会社の同じ社長の話なのですが(笑)、書いてみましょう。どれだけ私物化してたんだって話ですねえ。

「預け金」

会計上の勘定科目に、「預け金」というものがあります。銀行預金の「預金」ではないですよ。「預け金」です。これは普通、社員にお金を「預けた」時に使います。

具体的には、例えば出張旅費を社員に現金で渡した時に使います。旅費の金額によると思いますが、高額の交通費がかかる出張の場合、その交通費を現金で社員に支給することがあります。4月1日に現金を渡し、4月2日に出張に行ったとすると、まずは4月1日の日付で、資産科目である預け金を使った仕訳を切り、4月2日に預け金を取り崩して交通費を立てます。

1-1.出張者に現金を渡した
4月1日 預け金 105,000 / 預金 105,000
1-2.出張者が出張に行った
4月2日 交通費 100,000 / 預け金 105,000
仮払消費税 5,000

これが通常の預け金の使い方ですが、社長が会社を私物化すると、この預け金が悪い意味で活躍します。

お金が消えたことを誤魔化すために使われる

ここから先は私の思い出話です。ある日、社長がこんなことを言いました。

社長:「おい、ちょっと1000万用意してくれ。」

出納担当者:「はい、何に使うんですか?」

社長:「いいからよこせ」←銀座で豪遊するつもり

出納担当者:「いや、理由がないとお出しできませんが・・・」

社長:「いいんだよ。経理部長には後で説明しておく」←説明しない

出納担当者:「そうですか、わかりました。」

翌日。

出納担当者:「部長、昨日、社長に1000万円お渡ししましたが、何にお使いになったのでしょうか?」

経理部長:「え?そんなの聞いてないぞ?」

出納担当者:「社長が、部長に説明しておくと仰っていたのですが・・・」

経理部長:「そうか・・・確認しよう。」

社長室にて。

経理部長:「社長、昨日の1000万円なのですが・・・」

社長:「ああ、あれか、適当にやっといてくれ。」

経理部長:「適当と仰いますと・・・」

社長:「いいから、適当にやっといてくれ。」

経理部長:「適当ですか・・・。月末までにお返し頂けますね?」

社長:「うるせえな。用意しとくから気にすんな。」

と、こんな状況になると、何しろ何に使ったのかわからないので仕訳の切りようがありません。でも、預金は減っているのでそれは計上する必要があります。そんな時、預け金が使われます。

出納担当者:「部長、こう切るしかないですよね?」

経理部長:「そうだな、これしかないな・・・」

そんな会話をしながら切るのがこの仕訳。1000万円を渡したのが5月1日としましょう。

2-1.社長に1000万円渡した。用途不明。
5月1日 預け金 10,000,000 / 預金 10,000,000

銀行口座からは実際にお金が出て行ってしまっているので、その預金残高は銀行内に記録されています。そのため、まずいことになって調べられればお金が出て行ったことは明確に確認できます。つまり、銀行口座の預金残高と会社内の帳簿上の預金残高は何としても一致させなければなりません。

上記2-1のように仕訳をすれば、とりあえず5月1日に預金が減ったことは計上できます。そして預け金が登場するわけですが、仕訳を切る人としては、とりあえず預け金にしておけば後で監査が入った時に「これは、後でアフリカ出張するために渡したのです」とか、苦しいですけどとりあえずの言い訳ができます(もちろん、深く調べられればわかってしまいますが)。預け金の他に、誤魔化すために手頃な勘定科目はありません。選択の余地はほとんど無いのです。

で、月末。

経理部長:「社長、1日にお渡しした1000万円なのですが・・・」

社長:「ああ、用意しといたぞ。ほれ。」

という感じでお金が戻ってくれば、下記のような仕訳を切って預け金は消滅します。

2-2.社長に渡した1000万円が戻ってきた。
5月31日 預金 10,000,000 / 預け金 10,000,000
※2-1の仕訳と相殺して、預け金は消える。

とりあえずこれで一応危ない橋を渡りきったわけです。

しかし、社長の考えが改まらなければ同じようなことが繰り返されます。私が経験した会社の場合、社長は億の単位のお金を要求するようになりました。

社長:「おい、ちょっと5億用意してくれ。」

出納担当者:「はい。。。すいませんが用途は・・・?」

社長:「うるせえ。」

で、5億円渡します。

出納担当者:「部長、今日、社長に5億円お渡ししました。」

経理部長:「またか・・・。しかたがないな。」

仕訳は2-1と同様です。渡した日は10月1日としましょう。

3-1.社長に5億円渡した。用途不明。
10月1日 預け金 500,000,000 / 預金 500,000,000

で、また月末がやってきます。

経理部長:「社長、1日にお渡しした5億円は・・・」

社長:「ああ、すまないが今月は金が無いんだ。適当にやっといてくれ。」

経理部長:「社長、あの5億円が返ってこないと監査で問題に・・・」

社長:「うまくやっといてくれ。」

経理部長:「社長・・・。」

という感じで、お金が返ってこなかった場合。うまくやれと言われても、どうしようもありません。月末の仕訳は無しです。預け金の5億円はそのまま残ることになります。

3-2.社長に渡した5億円が返ってこなかった。
10月31日 (仕訳無し。預け金は残ったまま。)

5月の場合と10月の場合で重大な違いは、預け金が残ったまま月末を跨いだことです。会計監査ではBS(貸借対照表)やPL(損益計算書)を細かく調査されますが、BSもPLも、まずは年度末の数字を見て、それが終わったら毎月末の数字を見て・・・というように調べられます。どこまで細かく見るかは会計士の性格と忙しさによりますが、大抵は毎月末のBS・PLは調べると思います。

5月の場合は月末時点の預け金残高はゼロですから、5月末のBSを会計士にチェックされても問題が発覚することはありません。しかし、10月末のBSにはしっかり預け金5億円が残っています。それを会計士に見られればアウトです。1-1に書いたような通常の預け金であれば残っていても問題無いですが、5億円となれば預け金の金額として異常です。

会計士:「部長、この預け金5億円というのは・・・」

経理部長:「ああ、それですか・・・。社長にお渡ししたのです・・・。(もう終わりだ。。。)」

社長室にて。

会計士:「社長、10月1日に渡された5億円は何に使ったのですか?」

社長:「え?そんなことあったかな。」←感覚がマヒして忘れてる

会計士:「経理部長の説明では社長にお渡ししたそうですが。」

社長:「いや、そんなことはなかったはずだ。」

経理部長:「社長、確かにお渡ししました・・・。」

社長:「・・・お前が使い込んだんじゃないか?」

経理部長:「社長・・・。」

って感じで、監査が通らなくなります。この後どうなるかですが、究極的には仕訳を修正することになります。「正しく」仕訳をする必要があるので、「社長に渡した5億円は本当はなんだったのか」ということを検証することになります。

今回の場合は、おそらく「会社が社長に、見返りを求めずにお金をあげた」と認定され、「会社が社長個人に寄付をした」というような解釈になるでしょう。

3-3.社長に渡した5億円が寄付金と認定された。
10月1日 預金 500,000,000 / 預け金 500,000,000
↑3-1の逆仕訳を切って元に戻した
10月1日 寄付金 500,000,000 / 預金 500,000,000
↑改めて正しい仕訳を切った

ただ、この仕訳は会計上は正しいですが、これが正しいとすると社長や経理部長が横領などの刑事事件としての責任を問われてきます。なのでこの3-3の仕訳は切られることなく、会計監査を通らないまま時間が過ぎて行きます。そして監査が通らないということは信用に値する会社ではなくなるので、取引してくれる会社はいなくなり、倒産します。

この話は実際に私が経験したことを単純化したものです。実際、上記3-3の仕訳は切られないまま、会社は開店休業状態になり、倒産しました。私が最後に見た時には、預け金の残高は20億円ほどになっていました。

まあそんな感じです。会計関連のSEの方なら、会社のBSを見れる環境にある人も多いでしょう。ちょこっと見てみると面白いことがわかるかもしれませんよ。ここまで読んでくれた方ならわかると思いますが、年度末だけではなく、各月末とか、あと月中の中途半端な日に見てみるとさらに面白い事が見つかる可能性が高まります。


売掛金を即現金化する(ファクタリング)